子供の頃の話

私は幼い頃、とても臆病でいつか親に捨てられるような恐怖で母から離れると号泣するような子供だった。それでいて落ち着いた子供で話し下手。保育園の先生からは「親がおしゃべりだから子供は無口になったんだ」と言われるほどだった。大人にしてみればひとり遊びが上手で買い物食事に行っても騒がず物欲もない扱いやすい子供だったと思う。それでいて子供独特の自分は特別お姫様という空想で溢れていた。小さな一軒家はお城で自分はそれとなくお金持ちの家庭に生まれた令嬢だと思っていた。


母は私に付きっきりで専業主婦をしていた。きれいな母は私の自慢だった。でも心のどこかで嫉妬していて「私はどうしてこんなに醜いんだろう」と卑屈ぶり「大人たちは私が小さいから可愛いと言うんだろう」と嘲笑っていた。子供なのでそこまで辛辣に考えてはいないが判別はついていた。社交辞令だと。両親も例外ではなく特別可愛く私が見えている人という認識だった。それでも好きだし離れたくなかった。母の痛みは私の痛みで、私の苦しみは母の苦しみだった。


ある日好きだった男の子に小学校の廊下でキスされた。生まれて初めて男の子に好意を向けられた。私は恥ずかしくもあり、誇らしいと思って全力で教室に戻ってお友達に報告した。私はとうとう王子様が来たのだと有頂天になった。ませた子だ。本当に恥ずかしい。クラスメイトは大喜びでそれから私たちは公認のカップル扱いになった。


二年が経った頃、その男の子は他の女の子に告白していた。とてもショックだった。王子様が突然私の友達と両想いになり、しかも私は蚊帳の外になったのだ。子供心に身を引くしかないとすぐわかった。

私は子供だからキスをされて、それ以上先に進む方法が分からなかったのだ。手を繋ぐのは当たり前。一緒に帰るのも当たり前。そういう仲良しの先なんて想像つかなかったのだ。


私はこの時の話を母にしなかった。それほどまでにショックで悲しくプライベートな出来事だった。私は確信した。気弱な人間には損することしか回ってこない。強く生きようと心に強く思った。



大人になってもそのときどんな風に男の子と仲良くなれば良かったのかわからない。

子供らしい一歩の踏み方は子供しかできない。